カナダ国境に着いたのはH時過ぎだ。アメリカからカナダに入国するのはカナダからアメリカに入国するのと比べると、それほど厳しくはない。フランス系カナダ人の太った国境警備員が車に近づいてきた。「ずいぶん、速そうな車に乗っているけど、こんな遅くにどこへ行くんだい?」「モントリオールの友人を訪ねて、クリスマスを過ごしにきたんだ。日本からきた留学生だ。一人ぽっちのクリスマスはごめんだからね」「それはいい。クリスマスはみんなでお祝いしなくっちゃな」気の好い警備員は笑みを浮かべて私のパスポートを調べ、「メリークリスマスー・」と陽気に叫び、そして国境のゲートを開いた。友人には12時ころに到着予定と告げていた。カナダに入っても車のスピードを緩めずに走り続ける。19一時を少し過ぎて、モントリオール西にある住宅街にたどり着いた。一面、静かな銀世界の夜。木々や建物が白い帽子をかぶっている。車を降りて道を歩いてみた。「きゅっ、きゅっ」としまった雪音が鳴る。気温はマイナス10度以下。顔は寒さよりも痛さを感じる。あたりを見渡すと、人影のない白一色の街路にはイルミネーションやクリスマスツリーが飾り付けられ、おごそかなにぎわいがある。雪空からも見えない光がふってくる。「これこそ、ホワイトクリスマスだ!」。胸の奥で幼いころに感じた歓喜がこみ上げてきた。友人の家は住宅街の美しい丘の上にあった。雪で覆われたテニスコートのような広々とした庭。大きなツリーのような樹の下で、玄関のベルを鳴らす。ゴールにたどり着いたランナーの気持ちだ。「メリークリスマスー」、まっさきに友人のマイクと弟、可愛らしい妹がドアを開け、やさしそうなお母さん、赤ら顔のお父さんが満面の笑みで出迎えてくれる。「メリークリスマスー」、「メリークリスマスー・メリークリスマス」。私もはずんだ声で答える。700キロの道程、遠い国境を越えて、初めて出会った懐かしい家族たち。清らかな感謝と至福の喜びが私を包んだ。それは、これまでに迎えた中で最高のクリスマスだった。